電子サイン(DocuSign,AdobeSign,クラウドサインなど)の大まかな流れ

電子契約における電子サインと電子署名の違いは以前記事にしましたので、今回はその中の電子サインについて解説してみます。そもそも電子サインを実際に使ったことがないとイメージが湧きにくいこともあると思いますので、オーソドックスなケースで、電子サインの流れを簡単に説明してみようと思います。

仕組みや操作は少しずつ異なりますが、大枠としては、海外で主流のDocuSginもAdobeSignも、国内で主流のクラウドサインも変わらないと思います。

電子サインシステムというプラットフォームの契約

まず大前提として、電子サインを利用するためには、上記のような電子契約を扱っているベンダとそのシステムの利用契約が必要になります。当然、契約するため利用料やライセンス料が発生します。契約の相手側はサイン行為をするだけなため、利用料やライセンス料が課されないことが一般的です。

そうすると、相手のプラットフォームにのってサインをする方がお得にも思えそうですが、契約を締結したファイルが真正性を保つのはこの電子サインのシステムの中に保存されているファイルに対してとなるため、このプラットフォームの操作を握っている方が有利になると考えられると思います。

電子サイン用の契約書を準備する

① 契約書ファイル(サイン用)を作成

まず、サインを依頼する側は、電子サイン用の契約書ファイルを作成する必要があります。これは色々な形式がありますが、よく用いられるケースとしてはPDFファイルやWordファイルになります。

契約者双方で合意できている内容の契約書のファイルに対して、署名用のフィールドを埋め込んでいきます。このあとの流れでサインする人(甲乙ともに)が電子サインするフィールドの作成です。これは、従来の紙の契約書をそのまま利用するのであれば、契約書の最後の署名・捺印していたエリアに、サイン用のフィールドを設定していくイメージです。(以下はAdobeSignの例)

Adobe Sign フィールドタイプ

Acrobatを使ってPDFに一部分だけ編集(入力)できるフィールドを作ったことがあればそのイメージが近いです。

② 契約書ファイルをアップロード

作成した契約書ファイルを電子サインシステムにアップロードします。このあたり以降の処理はほとんどブラウザ上での操作になります。アップロードして、その契約書ファイルに対して、サインする人(サイナー)やサインする順番の指定などをしていくのがこの後の処理です。

アップロードの処理とサインフィールドの作成の順番が逆の場合もあります。つまり、電子サインシステム内で契約書ファイルの作成が出来るようになっているシステムも多く、例えばAcrobat(※Readerではない)がなくても、作成が出来るようになっています。

サイナーを指定してサイン依頼を送信する

③ サインをする人の情報を設定して送信

次に、サインをする人を設定して、サインの依頼メールを送信することになります。甲乙のサインが必要であれば、それぞれのサインをする人を設定したり、サインする順番が自社を先に指定したりといった、サインが順番にまわるようにワークフローのように設定したりもします。

DocuSign

ここで電子サインで注意が必要な点があります。

サインをする人というのは、設定するメールアドレスとなります。つまり人と言いつつも、システムの上ではメールアドレスという存在でしかありません

そして、サインは原則、そのメールアドレスでメールを受信した人しかできません。

そのため、以下のような課題を認識する必要があります。

・そのメールアドレス(特に相手側)がサインする人のアドレスであること
・そのアドレスの利用者が、相手側企業で、サインする権限を有していること

電子サインで難しいことは、この2点の情報をどのように取得するか、です。2点目については相手側の企業の問題なので、深く考慮する必要はないかもしれませんが、あとで社内規程的に権限なかったことが発覚して、追加の覚書締結などに巻き込まれることもあります。

また、相手側の締結権限者が代表取締役社長だった場合に、その方のアドレスにいきなりメールを送ることができるのか、という問題もあります。

一度、秘書が受け取り、そこから展開するとか、逆に社長が受信後に秘書に依頼する場合もあります。このような場合は、委任操作ができるようにあらかじめ事前に設定しておく必要があり受信したメールを気楽に転送するだけで出来る話ではありません

そのようなことから、どのような締結ステップを相手社内側で行うかまで事前にヒアリングしておかないとやり直しが発生する可能性が高くなり、紙で行う契約のやり取りよりトータルの作業が増えることもありえます。

また、メールアドレスが本人でない可能性はどうするのか?という懸念もあります。そのような懸念事項に対して電子サインでは解決できません。これらを解決するための方法が、電子証明書で個人の存在を証明して行う、電子署名となります

④ サイン依頼メール

上記で説明した内容を正しくセットし、送信を行うことで、サインする人のメールアドレスにサイン依頼のメールが発信されます。

図の矢印は相手側にしかメールが飛んでいないように記載していますが、甲乙双方のサインが発生する場合は、このタイミングで同様のメールが自社内のサインする人のアドレスにも送信されることになります。

電子サインを行う

⑤ 依頼メール内のURL先へ遷移し、契約書を閲覧・確認し、サインする

受信したメールに、サインするためのリンクやリンクボタンが表示されているため、サインする人自ら、そちらにアクセスします。

メールを見逃すこともあるため、送信した場合は、その旨、個別に連絡が必要かもしれません。このあたりは、締結に関わっている営業職などの配慮ですね。

リンク先にアクセスすることから分かるように、サインの手続きは全てブラウザ内で行われます。そして、対象の契約書ファイルは、常に電子サインシステムの中にあり、どちらかの契約者の環境にファイルが行ったり来たりするわけではありません

⑥ サイン済ファイル完成

サインを行うように指定されていた人が甲乙全員サインの処理が終わると、電子サインシステム内に置かれている契約書ファイルが締結済として完成します。

常に電子サインシステム内にファイルがあり、そこにアクセスして、サイン処理を行っていることから、いつ誰がアクセスし、いつサインしたか、という操作のログやサインした時間などの情報が、変更できない状態でこのシステム内に契約書のファイルとセットで記録されます

電子サインは真正性の担保が弱いという点がありますが、これらをカバーする要件が、この操作ログであったり、タイムスタンプであり、これら全てを揃えることで、法的な効果を示す、と定義されています

⑦ サイン完了の通知メール

全てのサイン処理が完了すると、サインが完了したことを示す通知のメールがサイナーや指定した管理アカウントなどに送信されます。多くのパターンではこのメールに後述のサイン済ファイルのコピーファイルの添付やそれを取得するためのリンクが記載されています。

これで一通りの処理は終わりです。ここまでが紙の契約書での双方捺印したファイルの取り交わしになります。

締結済ファイルの保管

⑧ 任意でコピーをダウンロードし社内のシステムに保存

紙の契約書を締結後に、スキャンしてPDFなどで契約書管理システムに保存するケースがあると思います。もしくは紙だけでファイリングするケースもあると思います。いずれにしても手元に最終系のファイルが必要になるため、このファイルを電子サインシステムからダウンロードします。

注意点として、ダウンロードしたファイルは契約書において真正性を担保されている原本ではないということです。

ダウンロードしたコピーファイルは、あくまでも写しになります。ダウンロードしたファイルには、タイムスタンプが失効している、という情報が付記されます。電子サインシステムは、そのシステムベンダが契約しているタイムスタンプが間違いがないことを担保するタイムスタンププロバイダと呼ばれる第三者のサービス事業者と接続しており、第三者の証明を常にとれることによりこのタイムスタンプが不正に変更されていないことを立証しています。

ダウンロードされ、その会社の自社環境に保存されているファイルは、タイムスタンププロバイダと接続されていないため、ファイルに組み込まれているタイムスタンプが失効しているという扱いになります。

ダウンロードしても原本となるファイルは、電子サインシステム内には保存されていますので、失われるわけではありませんし、電子サインシステム内の原本が失効扱いになるわけではありません。あくまでも手元にダウンロードしたファイルが失効扱いとなるだけです。

一番最初に電子サインシステムというプラットフォームを握っている方が有利としたのはこのような理由からです。あくまでも、相手側にあるファイルは写しでしかないということになります。究極的に、契約書が存在する理由は、裁判で戦うためです。戦うときに、真正性をもった情報にアクセスできるのがどちらか、ということです。

そのまま紙の契約書が利用できるケースばかりではない

大まかな流れは以上となります。最初は少し面倒そうにも見えますが、甲乙で捺印したり製本したり、郵送しあったり、を考えると、正しいコミュニケーションを取って進めさえすれば圧倒的に短期間で契約書手続きが出来ます。

ただし、他にも注意点もいくつかあります。細かくは各社の法務部門に確認することが必須になりますが、そもそも電子サイン・電子署名などの電子契約が効果として認められるかどうかというのが法的根拠に依存しています。

例えば、取締役会の議事録に電子署名を利用することが認められたのは、つい先週のことです。しかし、これも「電子署名」と記載されているため、電子サインではありません。

取締役会の議事録承認 クラウドで電子署名: 日本経済新聞
法務省が取締役会の議事録作成に必要な取締役と監査役の承認についてクラウドを使った電子署名を認める。これまで会社法が容認しているかを明示する規定はなかった。

また、例えば、契約書本文の最後の方によくある以下のような記述。

本書を2部作成の上、甲乙が各1部を保管するものとする

上記の流れで分かるように、2部作成されていないですし、原本はシステム内にしか存在しないことから、この1文を成立させることができません。

このようなことから、電子サインなどの電子契約には既存の契約書雛形であっても、条文の見直しが必要となります。


法務部門、IT部門以外からみると、何故さっさと電子契約のシステムを導入しないのか、という話になりますが、事前に決めなければいけないこと、注意しなければいけないことは多くあり、それを利用する自社、相手ともに正しく理解しないといけないことが分かると思います。

必ずしも、印鑑の文化を続けたくてそうしているわけではなく、正しくステップを進まないと、結果的に自社がリスクを背負うことを分かっているからこそ、法律や損害賠償に直結するような契約書に関わるシステムは、システムを導入したら簡単に使って良しというわけではないということを理解した上で、導入を進めることが大事になるのだと思います。

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