ボロボロの情シスを立て直すためにやってきたこと

数年前、今の会社の情報システム部(以下、情シス)のマネージャとして着任したとき、情シスはボロボロだった。社内ITを司る部門が体を成していない以上、会社のITガバナンスは当然存在しないようなものだし、情シス部門の社内からの信頼も低く、雑務を押し付けられる感じだった。当然ながら、部内の雰囲気も悪く、正直、大変なところに来たものだと思った。

とはいえ、それより悪くならないだろうと、こつこついろんなことをやってきた。

結果として、今は社内から感謝され、事あるごとに相談されるIT部門に成長した。数年で部のメンバの数も倍以上の人数になった。決して私1人の力で出来たことではないけれど、部門のトップとしてやってきたとこを振り返ってみると、大きく5つのポイントがあったのかな、って思う。

1.ルールを作り公開する

まず絶対必要なのが、ルールを作り公開すること。反発の少ない小さな単位から一つ一つ増やしていく。ルールの目的は、何がOKで何がNGかを明確に示すこと

ルールというのは不思議なもので、示されていないと、OKとNGの間のグレーなところをやろうとする人が現れる。頭の中ではその判断を良いと思っていなくても、目先の自分の仕事のために「書いていないじゃないか」というスタンスでやろうとしてくる。しかし、明確に示されているとやらなくなる。

影響範囲が広がってくると「どういう承認をもってそのルールは作られたのか?」ともっともらしくクレームしてくる人も出てくるが、適切なステップでルールの単位を広げていると、そう言われる頃にはそれより上から押さえられる方法が出来上がっている。

さらに、ルールという基準があることで一番助かったのは情シスだった。人によったり時期によって異なる対応をしなくなるし、毎回答え方に悩んだりせず「ここに公開しています」と言えるようになる。圧倒的に無駄な時間も減るし、ストレスも減ってくる。ルールを作り公開することは、誰にとってもプラスだった。

2.社内に味方を増やす

社内ITのルールメイキングが進むと、NGのケースにあたった部門から「どうしたら出来るか」の相談が増えてくる。得てして情シスという組織は、出来るだけ断りたいという思いが強い。例外は作りたくないし、なにせめんどくさい。だが、部門を強くするために、社内に味方を増やすためにこの機会を利用する

まずは、ルールを守ってしっかり断る姿勢を見せる。ただ、もう少し一緒に出来る方法を考えましょう!という雰囲気を残し、もう一度話し合う場を作る。

その2回目で「今回に限り」「特例で」「いつもお世話なってるから」などの枕詞をつけて、妥協案を提示する。あなただから特別だよ、という感じをだしていく。このとき、全ては妥協しないことが大事
0(NG)か10(OK)の2択ではダメで、まるで譲ったかのように見せつつ、5くらいに着地させる。むしろ理想としては、情シスよりに着地し、相手の一番望んでいることだけを妥協して譲ってあげるくらいがよい。

こうやって、1.との組み合わせで数をこなしていくと、いつの間にか味方は増えている。相手が「いつも無理言って申し訳ないんだけど」みたいな感じで相談に来始めたら、もう大丈夫。

そして、もう一つ大事なことは、役員なり、現場のトップなり、強い権限を持っている人こそ味方につけること。そういう人には「(あなたの面子も考慮して)あなたからの依頼である以上、しっかり対応します」というスタンスでやってあげる。

面子とか馬鹿馬鹿しく聞こえるけど、やはりある程度の社員数がいる会社では、立場や体裁への配慮を無視することは出来ない。「私が頼んだから情シスは動いた」という花を持たせてあげることも大事。逆にこの配慮を理解することで強い味方を得ることができ、こちらの不備などの際に、間に入ってもらえるようになる。味方は上下左右に幅広く、しかし確実に増やすのが大事。

3.会話の機会を多くする

とにかく会話(口を使った)の機会を増やす。特に他部。チャットやメールでのコミュニケーションは良い面もあるけど、テキストベースの方が厳しい言葉使いや内容になりがち。もしくは誤解しがち。相手の顔が見えないというのは、人を強くするのか、単純にテキストベースだから冷たく感じるのか。いずれにしても、面と向かっての会話の方がちゃんと伝えあえるし、強い口調で言えない人の方が多いし、直接顔をみて話すことで、名前と顔も覚えてもらえるし、こちらも覚えられる。

だから着任から1年くらいは、情シスのメンバが参加する他部との打合せには片っ端から同席した。とにかく顔も覚えてもらいたいし、自社ITや、部の立場を理解することにもつながるし、何より言い返せず丸め込まれてしまうメンバだけの場にならない。

打合せに限らず、相談もクレームも全てのフロントに自分がまず立つ。ストレスたまるし、自分の仕事がなかなか出来ないこともあるけど、これも自分の仕事の1つと思い、やり続けた。暫く続けていると、なんとなく内容のコントロールがきくようになってくるので、そうなるとだいぶ楽。そしてこうすることでメンバが余計な時間を取られたりしないので、トータルとして部内のレスポンスが早くなる。ITILのSPOC(単一窓口)のようなものに近いかもしれない。

4.部のメンバに自信をもたせる、ただしルール順守とマインド変革は必須

部外に対してもだけど、部内(つまり自分の部下)に対してとても大事にしたことは、相談や判断に必ずその会話の中で答えなり次のアクションを示し決めてあげること。保留にせずに決める。その繰り返しをしていると、少しずつ自分の意見もプラスした上で、判断を求めてくるようになる。そのときは出来るだけ、その意見を尊重し、その場でGoを出す。そうすると、自信をもって取り組んでくれるようになる。

ただし、何かするためにはルールも必要。ルールを守ることを大前提に前に進んでもらう
例えば、システムの変更やリリースはしっかりとした申請ルールに準じ、名ばかりの運用ではなく適切な運用に沿って行わせる。もちろん部外からの「この前みたいに、ちょっとこれだけ変更しておいてもらえない?」みたいな軽い依頼は完全に断ち切る。「申請ルールがあって徹底を厳守されているから」と言えるようにしておいてあげると、そういう無理な相談も断りやすくなる。その代わり、そういう仕組みを用意している以上、順守は必須とする。

ルール順守と同時に大事なことは、マインドの変革
長く虐げられた部門であったがゆえに、メンバはかなりマイナス思考で後ろ向き。プロアクティブな行動なんてなかなかしない。

しかし、いろいろな仕組みを整えていくと、前向きになっていくメンバが増えてくる。ただ、どうしても変わらないメンバもいる。それだけなら保守的と言うことも出来るかもしれないが、変化しようとしないメンバは愚痴を口にし、変化するメンバの足を引っ張ろうとすることもある

そうなると組織としては完全にお荷物になるため、こういう変革のときは少し心を鬼にする必要がある。変革の重要さ、愚痴の無駄さを話し合っても効果がない場合は、情シスを離れてもらうしかない。ある程度、こういう人事的な働きも必要な時はある。代わりの補充がなかったらかなり負担が増えるときもあるので、かなり裏ネゴをすることも大事。長く所属しているメンバだとこの決断は難しいかもしれないが、何のために取り組んでいるかを考えると、一緒に前に進める人を揃えていく必要があるかな、と思う。

5.システムを見直す

着任したとき、社内システムはかなりの数だった。しかし、今になって振り返ってみると、そのうち3割は完全に廃止したし、6割はリプレイスした。過去に言われるがままに作ったり導入したシステム、どこかの部門が作って運用だけ丸投げされたシステムがたくさんあった。だから止めていった。

少人数にしか使われていないシステム、導入効果を数字で示してもらえないシステムを片っ端から止めていった。「止めていいか分かる人がいない」とメンバが言ったものは止めた。止めても2週間ほど社内で反応がなかったら、誰も使っていない。誰も困らない。止めて分かったことは、使っている人がいるかも分からないシステムであっても障害があると夜間でも対応していたメンバがいたこと。システムが減ると障害対応が減る。障害対応が減るというのは、単純だがメンバの負担が目に見えて減る

リプレイスする際は、出来るだけ内製にこだわった。知識不足や経験不足で構築に時間がかかったり、既存システムからの切り替え時に障害を起こすこともあったがそれでも内製にこだわった。内製にこだわった結果、自部門でのシステム理解もかなり上昇したし、責任範囲が明確になった。自分たちで作ったもので障害が起きたときは、責任をもって復旧に対応するし、今までのやらされている感と違い、責任感が上回るようになった。

さらに、作り直したシステムの障害発生率は極めて低くなった。運用保守を想定しながら構築することで、設計思想も明確になるし、テストも中身を伴うようになる。

システムの見直しは、コストとの兼ね合いなどもあるが、今のシステムを捨てると決めて徹底的にやればなんとかなる。ちょうどクラウドへのリフト&シフトと時期が重なったから、その風をうまくとらえて、社内IT投資をつかみ取れたのも大きかったかもしれない。それでも、やはり、自分たちで作ったものにはちゃんと愛着も持つし、正しく理解できている。その積み重ねが安定した社内ITシステムの稼働につながり、結果、メンバの心理的負担の大幅な削減につながり、より成長する組織につながってきたような気がする。


こうして書いてみると、まだまだ他にもやってきたことはたくさんあるような気がする。やってくる中で、評価されたりされなかったり、反発されたり、色々あったが、一つ一つやってきたことが確実に実を結ぶときがある

うちの情シスの場合は、コロナ禍は大きかった。急に全社員に在宅勤務が発令されたときも、そこから今日までの半年も、テレワーク主体の働き方になった中で、大きな問題や課題に一切直面することなく会社の業務が遂行されている。そういうシステムが提供できている。そして、それが当たり前ではないということをSIerだからこそ、エンドユーザからの要望や案件を通して社員にも気が付いてもらえている。自分たちが整備された環境で仕事が出来ていたことに気が付いてもらえたようで、今年は多くの感謝の声を社内から頂いた。

情シスは、頼られ、感謝され、それでいて少しだけ怖い存在。それくらいがちょうどいいだろうな、と思いながら、日々改善と新しい挑戦を今も続けている。そして次のレベルに押し上げて、さらに大きく強い組織にしていくことが、企業を支えるIT部門の役目だと感じている。

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